トレーニング指導者のためのパフォーマンス測定と評価#27 並進運動と回旋運動のトレーニング速度を測る

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トレーニング指導者のためのパフォーマンス測定と評価#27 並進運動と回旋運動のトレーニング速度を測る

2026/04/08

 フリーウェイトによる鉛直方向以外のエクササイズでうまくVBTを行うことはできないか。トレーニング指導者を長い間悩まし続けてきたこの問題についに終止符が打たれることになった。鉛直方向以外にも前後左右斜め、そして回旋といった動作速度の計測がスムーズかつ正確に行うことを可能にしたANCORE Data Plate(エンカ―・データプレート)がそれだ。今回は、この新たなデバイスの特徴と使用方法について紹介する。

1.遂に鉛直方向以外のVBTが可能に
 フリーウェイトによる鉛直方向以外のエクササイズでうまくVelocity Based Training(VBT)を行うことはできないのだろうか? トレーニング指導者を長い間悩まし続けてきたこの問題についに終止符が打たれました。
 これまでも、ケーブルマシンのウェイトスタック部分に慣性センサーやLPT方式のVBTデバイスを取り付けて、水平面や斜面上の高速でのプッシュやプル動作の速度を計測するという試みがなされてきました。しかし慣性によってウェイトスタックが激しく衝突するという問題や、身体動作それ自体の速度が測れるわけではないという問題等々から、なかなかこれという決め手が見つからないままでした。 

しかし、VBTの黎明期から20年以上にわたりウェイトトレーニングにおける動作速度計測の妥当性と信頼性を牽引してきたGymAwareのテクノロジーによって、鉛直方向以外のさまざまな前後左右斜め、そして回旋といったレジスタンス運動における動作速度の計測がスムーズかつ正確に行うことが可能となったのです。 今回はこのANCORE Data Plate(エンカ―・データプレート)という新たなデバイスの特徴と使用方法について紹介することといたします。

2.ANCORE:エンカーとは
 エンカー・データプレートはその名が示すように、ANCORE(エンカー)というケーブル式のレジスタンストレーニング器具に取り付け、それを用いて実施可能なすべてのエクササイズにおけるエクセントリックとコンセントリックの動作速度やパワーや移動距離(可動域)といったデータを計測しリアルタイムでスマホやタブレットに表示するものです。
 ですので、まずエンカーそれ自体について説明します。
 エンカーはアメリカの大学1人は野球、もう1人はマウンテンバイクで肩を負傷しリハビリで苦労したという2人の青年が大学院で出会って、自らのアスリートとしての経験や負傷そしてトレーニングの経験を基に、より使いやすく効果を得られるケーブルマシンを開発しようということで意気投合し、2019年に発売開始されました。その後改良を重ね、現在アメリカで100を超える大学やほとんどのMLB、NHL、NFL、NBAチーム、多くのゴルファーやテニス選手、そして総合格闘技(MMA)の選手達にも使用されています。

 エンカーの抵抗は、Flat spiralspring、日本語で言う「ゼンマイばね」によって生み出されます。渦巻き状に巻かれた板状の金属がケーブルを引くことでさらに巻き上げられ、それが元に戻ろうとすることで発生する力を抵抗としています。本体だけで5ポンド(2.25㎏)の負荷ですが、負荷プレートを追加することで負荷を増加でき、標準セットで最大55ポンド(24.75kg)まで増やすことができます(オプションでそれ以上も)。 

 この抵抗の第1の特徴は、ラバーバンドのように伸長によって負荷が増大することなく、負荷の大きさはケーブルの引き出し長とは関係なくほぼ常に一定です。第2に、ウェイトスタックと違って慣性が働かないため、勢いよく引き出してもガツンと言う初期抵抗がなく、高速で引いても動作途中にケーブルがたわんだり動作を止めた時に反動による激しい力が発生したりすることがありません。その意味で空気圧マシンの抵抗に似ているということができます。そのため、動作の開始時から爆発的な力の発揮が求められ、動作範囲全体にわたって高速を維持しなければならない動作にとって、エンカーによるトレーニングの成果は効果的に転移しやすいと言えるでしょう。ただしこの点についてはさらなる研究が必要です1,2)。
 本体は幅の広い強力なマジックテープでパワーラックの支柱に固定するだけという簡単なセッティングですぐに使用でき、テニスの支柱や屋外の樹木あるいは固定ベンチ等動かないものであれば何にでも取り付けて安全に使用することができます(図1)。

3.FLEXのアプリでデータを取得
 データを取得するためのエンカー・データプレートは、エンカーの抵抗プレートの外側にワンタッチで取り付けることができます( 図2 ) 。GymAwareのリニアポジショニングトランスジューサーと同じ原理で、本体内部の回転から得られるケーブルの引き出し長をそれに要する時間で除することで速度が計測されます。エクササイズ動作の開始から終了までにケーブルが引き出された長さがそのまま運動による移動距離となります。 

 データはBluetoothで接続されたスマホやタブレットに送られ、無料(サブスクなし)のFLEX Strongerアプリ(iOSまたはAndroid端末の FLEXstrongerで検索)で見ることができます(図3)。
 FLEX Strongerアプリは、バーベルによるほとんどのエクササイズに対応したレーザーを用いた高精度VBTデバイスであるFLEXと共通のアプリで日本語対応です(図4)。したがって、バーベルによるエクササイズとANCOREによるケーブルエクササイズについて同じアプリでVBTを効率よく進めていくこともできます。

4.ANCOREによる速度計測
●さまざまな姿勢による上肢と下肢の動作速度計測
 ケーブルにハンドグリップ、ストレイトバー、両手でつかめるストラップ等を取り付ければ、取り付ける高さと身体の向きや姿勢に応じて、通常のケーブルマシンと全く同様に、さまざまな上肢と下肢および全身のエクササイズが実施可能です。それらによる動作速度を測定することでこれまで推測でしかなかったさまざまなエクササイズで発揮されるスピードをリアルタイムで確認できるようになります。 

 負荷の大きさと速度の関係を調べ、選手間で比較したり、動作や姿勢の違いによる速度を比較したりすることにより、速度という客観的なデータに基づいて意識するポイントの確認やどのような動作が適切かを調べることもできます。

 また、同じ大きさの負荷に対する速度の変化から体調の変化を知ることもでき、長期的なパワーの変化をモニタリングすることでトレーニングの評価も可能となります。

 ●体幹(上胴+骨盤)のセパレーションにかかわる速度の計測

 3Dストラップ(図5)と呼ばれる専用ストラップを肩にかけ、胸郭部に巻き付けることによって、上胴の回旋動作による速度を測定することができます。体幹の回旋が優れたパフォーマンスにとって重視される野球やソフトボールやテニス、ゴルフさらには各種の格闘技といったスポーツ動作のトレーニングにおいて非常に役に立つ測定を行うことができます。

 上胴に巻かれたストラップが回旋動作によって巻き込まれてさらにエンカーのケーブルを引くことになりますから、その速度をそのまま回旋動作の速度とみなすことができます。厳密には回旋動作の大きさは角度で、速度は角速度で表されるべきものですが、3Dストラップは身体にしっかりとフィットさせることができますから、並進運動や他の身体部分による代償動作を正しくコントロールし、足の位置を定めれば接線方向にストラップが引かれることでほぼ正確に回旋速度を計測することになります。それとともに、引かれる距離の変化が回転角度の変化にそのまま対応します。

 エンカー・データプレートでは前後方向や横方向の並進運動それ自体の直線的な距離と速度がわかりますから、並進だけの動作と、回旋だけの動作、そしてそれらを組み合わせた動作の分析と評価をすることにより課題がより明確となります。

 これとは別に3Dストラップを一方の股関節に入れ、臀部に巻き付ければ、上胴の回旋と分離させた骨盤だけの回旋速度を測定することができます。上胴と分離させた骨盤だけの回旋は、バッティングやピッチングにおける上胴と骨盤のセパレーションからのストレッチーショートニングサイクルによる捻り戻し効果を生み出すうえできわめて重要であると指摘されています3,4,5)。その角度の大きさと回旋角速度をそれに対応する移動距離と速度を測定しながら効果的にトレーニングを進めることができます。セパレーションがうまくできない選手にとっては、指導者の見た目や選手自身の感覚だけではなく、ケーブルの移動距離から実際の捻転角度の大きさを知ることによって動作の改善につながりやすくなります。

 骨盤の回旋は主に軸足の股関節の回旋によって生じますが、その外旋(グローバル座標系では内旋)動作についても骨盤の回旋角度とその速度によって意識ポイントがより鮮明となります。 実際のバッティングやピッチングでは、並進運動と回旋運動、上体の屈曲や側屈が組み合わさって生じ、それらもスウィング速度や投球速度に影響を与えますから、それらを分離したり組み合わせたりしながら移動距離や速度をエクセントリック、コンセントリック別に詳しく調べることが必要になると思われます。 

●効率よく肩の水平内・外転動作に負荷をかける各種ハンドルの利用

 体幹の直接的な回旋に負荷をかけ速度を計測するだけではなく、バッティングやテニスのストロークなどの上肢の動作に負荷をかけつつ体幹のローテーションを意識させることも有効だと思われます。野球で下から上に打ち上げるような動作や、ゴルフやバドミントンやバレーボールに見られる上から下への斜めの動作、テニスのフォアハンドやバックハンド・ストロークのような上肢の動作に体幹の回旋を行いながら適切な負荷をかけるには、反対側の肩に不必要なストレスをかけることなく、安定した体幹の回転軸を作った姿勢で行えることが重要です。

 そのためには、両手の幅を広くしたまま、肩の水平内・外転に負荷をかけるためのチョップ・ハンドル(図6)や、ストラップの片方を肩腕にかけ、もう一方の腕だけでグリップを握ってスムーズな肩の水平内・外転を行えるヒッター・ハンドル(図7)を用いると両手で1つのハンドルを握って行うのとは異なる姿勢を作ることができ、負荷のかかり方も微妙に変わってきますので、試してみる価値はあります。 

まとめ:速度を知ることで指導が変わる 

トレーニング指導をより効果的・効率的そして安全に行うためのツールとして動作速度を活用するのがVBTです。決まった指導法やプログラム法があるわけではありませんですから、今回のようにこれまで測定できなかったさまざまなケーブルマシンで行うエクササイズの速度そして動作距離等を知ることができるようになったことで、指導者のアイデアが豊かになり指導法がますますレベルアップすることは間違いないと思われます。ぜひこの機会にエンカーとエンカー・データプレートによってこれまで測りたかった動作の速度を客観的に測定し、トレーニング指導の幅をさらに広げてください。

 ANCOREとData Plateについての詳細は、エスアンドシー株式会社のホームページに紹介されています。
https://sandccorporation.com/ancore

 

参考文献
1. Frost DV, Cronin JB and Newton RU. Acomparison of the kinematics, kinetics and muscle activity between pneumatic and free weight resistance. European journal of applied physiology. 104: 937-956, 2008.

2. Barba-Ruiz M, Heredia-Elvar JR, Martin-C a s t e l l a n o s A , I g l e s i a s - G a r c i a J a n d H e r m o s i l l a - P e r o n a F. F o r c e p r o f i l echaracteristics of gravitational and pneumatic resistance in pull and push exercises. Sports, 13:239, 2025.

3. Lin YC, Chou PP, Lin HT, Shih CL, Lu CC, and Su FC. A new method for evaluating pelvic and trunk rotational pitching mechanics: From qualitative to quantitative approaches. International Journal of Environmental Researchand Public Health 18, 905.( 2021)

4. Wada N, Otsuka M, Yamaguchi Y, and Tsuji T, Kojo T, Kono T, and Nishiyama T. The association among ball speed and the rotation of pivot leg, pelvis, and trunk separation in collegiate baseball pitchers. Helion, 11, 2025.

5. Cohen AD, Garibay EJ, and Solomito MJ. The association among trunk rotation, ball velocity, and the elbow varus moment in collegiate-level baseball pitchers. American Journal of Sports Medicine. 47: 2816–2820, 2019.

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