トレーニング指導者のためのパフォーマンス測定と評価#24 挙上速度によるレップ数のコントロール(その1)
2025/11/26
挙上速度によるレップ数のコントロール(その1)
VLC: 速度低下率によるセット終了法
記事はJATI EXPRESS No.108に掲載のものです。
2017年、トレーニング現場で、個人ごとの客観的な速度低下率をリアルタイムでモニタリングし、一定の速度低下率に達した時点でセットを終了することによって、効率よくトレーニング効果を上げられるのではないかという研究が本格的に始まった。それ以来、Velocity-Loss Cutoff(VLC)と呼ばれる挙上速度の低下を指標とするレップ数のコントロール法が研究され現場にも普及していった。今回は、VLCについての最新の研究動向について解説したい。
VLC: 速度低下率によるセット終了法
挙上速度によるレップ数のコントロール(その1)
1. 挙上速度の低下率でセットを終了するというアイデアの誕生
ウェイトトレーニングにおける反復動作をそれ以上挙がらなくなるまで追い込むのではなく、挙上速度を1レップごとに測って、速度が一定の割合にまで低下したらそのセットを終了するというアイデアは、すでに1998年の第1回国際ストレングストレーニング学会でスロバキアのデュシャン・ハマーらによって報告1)されていましたが、生理学およびバイオメカニクスの観点から科学的分析が行われるようになったのはその10年以上後のことです。
2011年にスペインの研究グループが、ウェイトトレーニングにおいて、常に可動域全般にわたって全力で最大速度を発揮するよう意識しながら挙上動作を繰り返すと、挙上速度は直線的に徐々に遅くなり、それに伴って神経-筋系の機能低下と代謝ストレスの増大が顕著となり、主観的運動強度も増大して疲労が進行する、しかし一定以上の速度が低下してきた時点でセットを終了することによってその疲労を低く抑えることができることが報告されました2)。
それを基に、トレーニング現場で、個人ごとの客観的な速度低下率をリアルタイムでモニタリングし、一定の速度低下率に達した時点でセットを終了することによって、無駄な疲労を招くことなく、効率よくトレーニング効果を上げられるのではないかという研究が本格的に始まりました3)。それは2 0 1 7 年のことです。それ以来、Velocity-Loss Cutoff(VLC)と呼ばれる挙上速度の低下を指標とするレップ数のコントロール法が研究され現場にも普及していきました。 今回は、このVLCについての最新の研究動向について解説したいと思います。
2. 従来のレップ数処方の問題点
VLCが提唱され普及するまでは、一定の負荷強度で何レップを何セット行うかということがあらかじめ決められ、チームスポーツでは全員に対して一律にそのレップ×セットを適用するというのが一般的に行われていました。 今でも多くのウェイトトレーニング指導の教科書やガイドブックにはそのように記載されています。例えば、最大筋力向上を目的とするなら1RMの80~100%で1~4レップを3~5セット、パワー向上が目的であれば5 0 ~80%1RMで2~5レップを3~6セット、筋肥大なら60~80%1RMで8~12レップを2~4セットという具合に、レップ数とセット数の推奨値が示されています。
しかし、トレーニング強度を個人に対する相対値(%1RM)によって一定にしたとしても、量すなわちレップ数×セット数を一律に指定したとたんに、個人に対する全体としての負荷の大きさは全く一定ではなくなります。なぜなら一定の強度を連続して挙上できる最大反復回数には個人差があり、その日の体調によっても異なるからです。
同じ相対的強度でも、反復可能な最大回数は全く異なることを証明した研究にはたとえば次のようなものがあります。ウェイトリフティングの選手と陸上競技のクロスカントリーの選手それぞれ8名を対象として、レッグプレスの70、80、90%1RMでそれぞれ最大で何回反復できるかが調べられました4)。
その結果、70%1RMでは、ウェイトリフティング選手が平均17.9 回だったのに対して、クロスカントリー選手はその2倍以上の39.9回、80%1RMでもウェイトリフティング選手が平均11.8回だったのに対してクロスカントリー選手はやはりほぼ倍の19.8回、そして90%1RMでは、ウェイトリフティング選手が平均7.0回だったのに対してクロスカントリー選手は10.8回反復することが示されました。これは平均値ですから分散を考慮すると個人差はさらに開くと思われます。
この例では種目が全く違うので、同じスポーツ種目のチームに属する同性・同年代の選手間で実際はここまで大きな差がないかもしれませんが、個々の選手の筋線維タイプ、四肢の長さ、筋の付着部位、トレーニング経験、さらには測定日の体調によっては、%1RM強度とその重さで反復可能な最大回数の関係には大きな個人差があることが明らかです。
もしもこの例のようなタイプの選手が混在しているチームの全員に対して、例えば、「70%1RMで8レップをレスト1分で3セットやるように」という指示を出したらどうなるでしょうか。ある選手は、8回あげるのがやっとであるのに対して、別の選手は全くの余裕ということになってしまいます。A君は70%1RMを14回挙げることができ、B君は10回しか上げられなかったら、A君はあとまだ6レップできる状態でセットを終えますが、B君はあと2レップしかできないくらいに追い込んだ状態でそのセットを終えることになります。
こうした直接目には見えないけれども神経-筋系や代謝系そして主観的運動強度に対する個人ごとの疲労度の大きな違いが数週間にわたって継続していくと、どういう結果になるでしょうか? 一方で常に大きな疲労を抱えたままその他のトレーニングに取り組まなければならず、徐々に疲労を蓄積していく選手がいる一方で、他方では指導者が狙ったような負荷を適切に掛けることができず、常に低い強度でトレーニングしている選手が生まれることになります。
3.挙上速度低下率によるレップ数のコントロール法
こうしたことから、速度低下率を利用することで1人ひとりの選手の疲労度をうまくコントロールするという手法(Velocity-Loss Cutoff: VLC)が提唱され、多くの実践と研究がなされてきました。あらかじめ速度の低下率を決めておいて、その閾値を超えた時点でそのセットを終了するというものです。全員一律にレップ数を指定するのではなく、速度低下率の閾値に達した時点でセットを終了します。こうすると選手によって実際の反復回数はそれぞれ異なりますが、最大速度からの低下率という点で同じ疲労度に達するであろうと仮定されたわけです。
このVLCについては、私も拙著の中で詳しく解説しました5,6)。すでに日本国内でもさまざまな種目のさまざまなレベルのアスリートがこのVLCを取り入れており、速度低下率の違いが筋機能特性のトレーニング効果に与える影響について日本人アスリートを対象とした研究も進んでいます7,8,9)。その結果、従来のような一律のレップ数で行うトレーニングに比べて、神経-筋系や代謝系や主観的な運動強度に対する疲労度を低く抑えつつ、より少ない総レップ数でより高い効果あるいは同等の効果が得られることが示されています。
速度低下率は次の式で求められます。_速度低下率(%)=(対象とするレップにおける速度-1レップ目の速度もしくは最大速度)÷ 1 レップ目の速度もしくは最大速度×100。
つまり、反復することによって低下していった速度が、そのセットの最初または最大速度に対してどれだけ低下したかを割合で示したものです。全力挙上に慣れてくれば最大速度は1レップ目に出ますが、必ずしも常に1レップ目が最大速度になるとは限らないため、低下率はそのセットにおける最大速度に対する割合で求めます。ほとんどの場合、これは2レップ目遅くとも3レップ目までに発揮されます。それより後に最大速度が出るようではアップ不足か集中できてないか、テクニックが未熟過ぎて安定した速度が出せてないと判断することができます。
この速度低下率についてはこれまで多くの研究がなされており、2023年には、38編の研究をまとめたメタ分析10)が発表されています。それによると、事前に固定されたレップ数を用いるよりも10~30%の速度低下率の閾値を用いることによって、筋力とジャンプやスプリントのパフォーマンスの向上を引き出し、速筋線維の減少を防ぐことが確認されています。
ここからも明らかなように、速度低下率を指標としてセットを終了させる方法は、確かに従来の固定されたレップ数を一律に設定する方法に比べて効果的であることは確かなようです。
4. VLCの限界
しかし同時にこのレビューでは、速度低下率を一定にしても、神経-筋系、代謝系、そして主観的運動強度に対する疲労の大きさは常に同じではなく、エクササイズ種目、用いる強度、さらには個人差やセット間、セッション間によって異なる可能性が指摘されています。そうすると、速度低下率だけで個人にとって最適なレップ数を決定することがどこまで可能かという課題が残ることになります。
確かに、最大速度からの低下率(例えば20%)によって個人差を踏まえたレップ数でトレーニングすることは、すべての個人に対して一律のレップ数を課すよりは個人ごとの疲労度を考慮したトレーニングになることは明らかです。しかし、もし例えば70%1RMという相対的負荷で速度低下閾値を20%に設定してトレーニングしたとします。そしてA君は9レップ目に速度低下率は20%に到達し、B君は5レップ目に20%の低下率に到達したとします。すると、明らかに客観的な仕事量は大きく異なることになり、果たしてそれでいいのかという疑問が残ります。筋肥大が仕事量の大きさと関係しているとするならば、A君のほうがB君よりも多くの筋肥大に対する効果的な刺激を受けることになります。
さらに、速度低下率が20%でセットを終了したとき、A君とB君がそれぞれあと何回反復できるかはわかりません。もしA君がさらにあと8回反復できる余力を残しており、B君はあと4回しかできないとすると、この時点での2人の神経-筋系、代謝系、そして主観的運動強度に対する疲労度はかなり異なるものとなります。つまり、速度低下率を一定にするだけでは2人の疲労度の違いはわからないのです。
5. 速度低下率-%総レップ数関係
一定の速度低下率によってセットを終了させるという考えは、一定の速度低下率に達したときまでに完了したレップ数は、その後それ以上挙がらなくなるまで挙上を繰り返したときの総レップ数に対してほぼ一定の割合になるという2017年の研究結果3,11)に基づいています。
これは、「速度低下率-%総レップ数関係」と呼ばれており、次のような方法で確かめることができます。
被験者に1レップごと最大速度でそれ以上挙がらなくなるまで一定のリズムで反復を続けてもらい、1レップごとの速度を記録します。そしてそれぞれのレップにおける速度のそのセットの最大速度に対する割合を求め、その値と最終的な総レップ数に対するその時点での反復回数の対応関係を調べます(図1参照)。
こうした方法で速度低下率と%総レップ数の関係を調べた最近の研究によると、2017年当時に言われていたように、速度低下率が20%の時点でほとんどの場合、総レップ数の50%に相当するといった普遍的な関係にあるのではなく、そこには大きな個人差があることが示されています12)。特に強度が低く、速度低下率が小さくなるとその傾向が強くなるようです。その結果、選手によっては指導者が想定するよりも早くセットを終了してしまうということが起こりえます。このことは、選手のリフティングテクニックの未習熟、ちょっとした一瞬の気の緩み、さらには速度計測に使用するデバイスの精度や信頼性によっても影響を受けます。そのため、速度低下閾値を1回下回っただけでセットを終了するのではなく、2回下回った時点でセットを終了するという方法も提起されています。しかしこれも、速度低下が適切に進行していた場合には、基準の速度低下閾値に到達しているにもかかわらずさらにもう1レップ行うことになり、これを常に行うことは大きな疲労を招くことになってしまう危険性が増します。
速度低下率の違いによってトレーニング効果が異なるという研究結果がある一方で、そうとは限らないという研究もあります。1.2m·s -1の速度が出るウェイトを担いでのカウンタームーブメントジャンプを、セッションのトータルが36レップになるように週2回セッションで8週間実施したトレーニングで、セット内の速度低下閾値を10%としたグループと20%としたグループで比較した研究13)では、パワーやジャンプ高やスプリントタイムのトレーニング効果においてグループ間で有意な差が見られませんでした。その理由として実際のセット内のレップ数には大きな個人差があったことが示されています(変動係数で約30%)。 また、複数の研究結果3, 12, 14, 15)を基にまとめられているデータ16)によれば、エクササイズ種目によっても、また強度(%1RM)によっても速度低下率と%総レップ数の関係は異なることが明らかにされています(表1)。
例えば、ベンチプレスでは80%1RMで速度低下率が20%の場合、総レップ数の45%を挙上したことになりますが、スクワットでは同じ強度で同じ速度低下率で52%に達しており、ベンチプルでは81%まで追い込んでしまうことになります。同じプル系のエクササイズでも負荷が自体重の懸垂では20%の速度低下率では総挙上回数の46%となります。速度低下率15%であれば、ベンチプレス37%、スクワット45%、ベンチプル68%、そして懸垂では38%となります。この差は、特に軽い強度、小さい速度低下率で顕著となり、セット間、セッション間でも異なることが示されています。
また、0.70 m·s -1でのスクワットを10%、20%、30%の速度低下閾値でVLCを5セット行うことを4週間隔てて繰り返した研究17)では、使用された重量や発揮されるフォース、パワー、速度には安定した値が示され、VLCは数週間のメゾサイクルにおいて信頼性の高い方法として使用できることが明らかとされましたが、各セット内の反復回数の個人差は、19~68%というきわめて大きな変動係数であり、選手ごとの総トレーニング量では著しく異なることが示されています。
6. ではどうすればいいのか?
このように、VLCというレップ数のコントロール法は、それ以上反復できなくなるまで追い込んだり、全員に対して一律にレップ数を決めてしまったりという従来から常識として行われてきた方法に比べれば、確かに個人差を考慮し、かつ無駄な疲労を招くことなく効率的にトレーニング効果を上げる方法として積極的に採用することが推奨されます。しかし、最近の研究に基づけば、さらに個人特性やエクササイズ種目の違いや用いる強度の大きさ、そしてトレーニングの目的によって、より適切なレップ数のコントロール法を追求することが求められています。
こうしたさまざまな条件に応じて適切にレップ数をコントロールする方法として、従来から用いられているものにRIRがあります。RIRは、Repetitions(left)In Reserveの略で、残存(余)反復回数ともよばれており、要するにそのセットであと何回挙上できるか、言い換えるとどれくらい余力があるかという主観的な判断による数値です。セット内の疲労レベルを簡単に予測しコントロールできる方法としてパワーリフティングの世界でよく用いられてきたものです18)。最近、このRIRと挙上速度との関係が研究され、これまでのVLCだけでは安定してコントロールできなかった側面についてさまざまな新たな手法が提起されています。次回はこれについて詳しく解説したいと思います。
参考文献
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